スーパーの米売り場で、5kgの価格が 4,500〜5,500円 という光景を見て驚く人も多いはずです。
しかしその裏で、家庭では パスタ・パンへのシフト が進み、いわゆる コメ離れ は止まりません。
需要が減っているのに価格は下がらない。
この“逆転現象”の背景には、コメ産業の構造的な問題が潜んでいます。
■ なぜ「需要が減っているのに米価が下がらない」のか?
理由は1つではなく、複数の要因が重なっています。
● ① 生産コストが大幅に上昇
ここ数年、農家のコストは急騰しています。
- 肥料価格 → 2倍〜3倍
- 燃料代(軽油) → 高騰
- 農機の価格 → 高止まり
- 人件費 → 上昇
結果として、農家は
「安売りできる状態にない」
のが現実。
単価を下げれば赤字になるため、出荷価格を下げられないのです。
● ② 農地の減少と高齢化で“供給量自体が縮小”
コメ離れで需要は減っているが、
供給(作付け面積)も同時に縮小 しています。
生産する農家が減り、担い手も不足。
結果、供給過多にならず、価格が下がりにくい構造になっています。
● ③ 政策的な「需給調整」で急な値崩れを防ぐ仕組み
国は、農家を守るために作付けをコントロールしてきました。(生産調整)
- 作付けを減らした農家に補助金
- 供給量を抑えることで価格を維持
これにより「米国の農産品のように暴落する」ことが起きにくい仕組みになっています。
メリットは農家の安定。
デメリットは 消費者が値下がりの恩恵を受けにくい 点です。
● ④ 小売店の“値下げ競争”が限界に達している
スーパーは薄利多売の世界ですが、
ここ数年は電気代も人件費も上昇。
米だけ赤字販売する余裕はありません。
結果、
コメの特売が減り、定価がそのまま店頭価格に反映される
ようになりました。
■ 卸業者は「億単位の損失」の危機
米価の高止まりは、実は 卸売業者に深刻なダメージ を与えています。
◎ 需要が読めない
コメ離れで売れる量が減っているため、仕入れた分が捌けない。
◎ 在庫リスクが巨大
米は長期保存できるように見えて、
実際は 味が落ちやすい・鮮度が命 の商品。
在庫を抱えたまま価格が下がれば、
卸は “億単位の損失” を抱える可能性があります。
◎ 業務用需要(外食・給食)の波も大きい
コロナ以降、業務用の動きが不安定。
ロスが発生しやすく、卸の経営をさらに圧迫しています。
卸売業者は、
「米価が高い → 売れない → 在庫が残る → 損失」
という負のループに巻き込まれているのです。
■ コメ産業全体が“構造転換”を迫られている
米価が下がらないのは単なるインフレではなく、
農家・卸・小売・政策・消費者行動のすべてが関わる問題 です。
そして、構造的には次の課題が浮き彫りになっています。
- 国内生産の担い手不足
- 保護政策と自由競争のバランス
- 需要減少時代の新しい供給モデル
- 卸・小売の利益構造の見直し
- 「米を食べる生活習慣」そのものの変化
もはや「安い米を提供する」だけでは解決しない段階に来ています。
■ これから必要なのは「価格だけでない価値の創造」
米価が下がらない未来を前提にするなら、
産業としては次の方向が求められます。
- 高付加価値米(ブランド化・機能性)
- 新しい販売モデル(定期購入・サブスク)
- 6次産業化(加工品・輸出)
- 外食・加工業との連携強化
- 若い農家の参入支援
そして消費者にとっても、
「価格以外の魅力」 がある米が求められるようになるでしょう。
■ まとめ:米価は簡単には下がらない。だからこそ次の時代に備える必要がある
米価が高止まりする理由は、
- 生産コスト上昇
- 生産者の減少
- 政策による供給調整
- 小売・卸の構造問題
と多岐にわたり、単純に「値下げをすれば解決」という状況ではありません。
卸業者が「億単位の損失」を口にするほど、
現場では深刻な歪みが生まれています。
この流れは今後も続く可能性が高く、
“戦後の米価格の常識”はもう通用しない時代 に入ったと言えるでしょう。

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