金価格の上昇が止まらない。田中貴金属工業が10月14日午後2時に発表した店頭小売価格は、1グラムあたり22,326円と過去最高値を更新し、これまでの大台であった「2万2000円」を初めて突破した。
買い取り価格も22,135円と最高値をつけ、国内の金市場は新たな節目を迎えている。
安全資産とされる金価格の高騰は、地政学リスクや金融政策を背景にした構造的なトレンドだ。今回は加えて、株式市場も高値圏にあるという“異例の上昇局面”が重なっている点が注目される。なぜ今、金と株が同時に上がっているのか。その背景と今後の見通しを探る。
📈 史上最高値更新──金価格、1g=22,326円に
金価格の国内指標となる田中貴金属の14日の発表によれば、店頭販売価格は 前週末比755円(3.5%)高 の 1グラム22,463円 に達した。
この水準は国内金価格として過去最高値であり、心理的な節目である「2万2000円」のラインを明確に突破したことになる。
さらに、買い取り価格も22,135円 と過去最高。長期にわたり金を積み立ててきた個人投資家にとっては含み益拡大となり、地金売却の動きも一部で活発化している。
世界的にも金は上昇基調にあり、2025年に入ってからその勢いは一段と強まっている。ドル建て価格では1オンス=2,500ドル近辺で推移し、歴史的な高値圏にある。
🏦 背景① 米中対立とリスク回避
金高騰の背景の一つが、米中貿易摩擦の再燃だ。
米国では一部政府機関の閉鎖や通商政策の不透明感も強まり、国際金融市場では「有事の資産」への資金シフトが進んでいる。
金は国家の信用や発行体の破綻リスクに左右されにくい“現物資産”であり、株や債券と比べて安全性が高いとされる。
世界的な不確実性の高まりは、金の保有ニーズを押し上げる構造的な要因となっている。
💵 背景② FRBの利下げ観測とドル安
米連邦準備制度理事会(FRB)の追加利下げ観測も、金価格を押し上げる要因だ。
金は利息を生まない資産であるため、金利が低下すると相対的な魅力が高まる。実際に米国の長期金利は年初来で低下傾向にあり、ドル安も進行している。
ドルが下がれば、ドル建てで取引される金の価格は相対的に上昇しやすくなる。これに伴い、世界中の投資家が金へ資金をシフトしている。
📊 背景③ 株高局面での“リスクヘッジ”という新たな動き
従来、金と株は逆相関の関係にあるとされてきた。株式市場が好調なときはリスク資産への投資が活発になり、金は売られやすい。しかし、現在の市場では株価と金価格が同時に上昇する異例の状況が起きている。
この背景について、野村證券経済調査部・市場戦略リサーチ部の髙島雄貴エコノミストは「米国株式市場は高値圏にあり、過熱感がある中で、一部の投資家がリスクヘッジとして金を買い増している」と指摘する。
投資家は株式市場の上昇が続く一方で、将来的な調整局面を意識しており、「攻め」と「守り」の両面を意識したポートフォリオ戦略が広がっていると考えられる。
🪙 銀価格も最高値更新──コモディティ全体に資金流入
金と並んで、銀価格も上昇基調にある。
銀は工業需要と安全資産需要の双方を持ち、地政学リスクや景気後退懸念が強まる局面で買われやすい。金が上昇する局面では銀も追随しやすく、コモディティ市場全体に資金が流入する傾向が見られている。
金銀比価(ゴールド/シルバー・レシオ)も注目されており、金が過熱感を帯びる中で相対的に割安な銀に資金が流れるケースもある。
🧭 投資家心理と今後の見通し
金価格の上昇は、一過性のイベントではなく、世界的な低金利と地政学的な不安定さを背景にした構造的な流れである。
加えて、中央銀行による外貨準備の多様化や、インフレヘッジとしての需要も高まっている。
一方で、短期的には急速な上昇に伴う反動や利益確定売りが入る可能性もある。特に節目を超えた直後はボラティリティが高まりやすく、冷静な判断が求められる局面だ。
🏠 生活者・個人投資家への影響
今回の金価格上昇は、個人投資家にとっても大きなインパクトがある。
田中貴金属をはじめとする国内地金商は、小口から積立を行う個人投資家の受け皿となっている。長期にわたり積立投資を続けてきた層にとっては資産価値の大幅な上昇を意味し、一方で新規参入を検討する層にとっては「高値づかみ」のリスクとの向き合いが課題となる。
金は配当や利息を生まない資産である一方、価値の保存手段として強い安定性を持つ。
インフレや金融市場の混乱時にも価格が下支えされやすいことから、分散投資の柱として位置づけられることが多い。
📝 まとめ
- 金価格が 22,326円/g と過去最高値を更新。買い取り価格も 22,135円 に。
- 背景には 米中対立、FRB利下げ観測、株高局面でのリスクヘッジ という複合的要因。
- 株高と金高の同時進行は異例。投資家は「攻め」と「守り」を組み合わせる戦略を取っている。
- 銀価格も上昇し、コモディティ全体に資金流入の兆し。
- 個人投資家にとっては長期分散投資の重要性が高まる局面。
金市場は、地政学・金融政策・投資家心理の三重奏によって動く。今回の節目超えは単なる一時的な高値ではなく、世界的な資産シフトの一環とみる専門家も多い。今後も国際情勢や金融政策の動きが、金相場の方向性を大きく左右することになりそうだ。


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