●はじめに
トレードは“判断と行動”の連続です。
買う・売る・保有する──そのすべてに選択がつきまといます。
ところが、しばしば投資家は
「動いていないと不安」「何かしていないと置いていかれる」
といった**“行動欲求”の罠**に陥ります。
この記事では、
**なぜ「動き続けたくなるのか」、そして「何もしない勇気がなぜ重要なのか」**を
心理学・脳科学・行動経済の視点から読み解いていきます。
●1. 「ポジションがないと落ち着かない」──これは依存?
トレーダーの世界では「ポジポジ病(常にポジションを持ちたがる病気)」という俗語があります。
これは、ポジションを持っていない状態に耐えられない心理状態を表しています。
背景には以下のような心理要因があります:
- 自己効力感:「何かをしている=有能」と感じたい
- 即時報酬の誘惑:値動きという刺激をすぐに受け取りたい
- 損失回避の錯覚:一時も市場から目を離せないという不安
つまり、トレード行動そのものに「中毒性」があるのです。
●2. 動くこと=正しい、という錯覚
私たちの脳は、「結果が出る行動」を好む傾向があります。
待つこと・じっとしていることは、「成果が出ていない=悪い」と無意識に判断しがちです。
特に、SNSで他のトレーダーが「利確報告」や「暴騰銘柄」を次々にシェアしていると、
自分も動かなければ取り残されるという“焦り”が生まれます。
これは行動経済学でいう**「FOMO(Fear Of Missing Out)」=取り残される不安**です。
●3. トレードの“快感ループ”
脳科学的には、
トレード中に得られる小さな勝ちや損失回避はドーパミンの放出を伴います。
このドーパミンによって「トレード=快感行動」として脳が学習し、
無意識のうちに“またエントリーしたくなる”状態を作り出します。
まさに「ギャンブル脳」への変化です。
本来の目的(資産を守る・増やす)より、トレード行為そのものが目的化してしまうのです。
●4. 「動かない」という戦略の難しさ
行動しないことも、れっきとした“選択”です。
それは、以下のような成熟した判断の表れです:
- 根拠のあるチャンスが来るまで待つ
- 自分の戦略から外れる局面では見送る
- 感情に左右されそうな日は“休む”
ですが、これらの**「静かな行動」**は、感情的には不安・退屈・無力感に見舞われやすいのです。
つまり、「何もしないでいること」は、強い精神力と自己制御が必要なのです。
●5. 「酔わないトレード」のためのヒント
- 取引日記をつける
「感情で動いた」瞬間を記録することで、自分のパターンに気づけます。 - “非トレード日”を意識的に作る
休むことを“ルール”にすると、罪悪感が減ります。 - 目標を「成果」ではなく「行動プロセス」に設定する
例:今日は「チャンスがなければエントリーしない」が達成目標 - 動きたくなったら、あえて1時間だけ放置する
衝動と本心を切り分ける時間が持てます。
●まとめ:「静」は最強の“戦略”になる
トレードという“動き”は、時に私たちを酔わせます。
市場にいることで「何かしている感」を得られ、結果よりも“行為そのもの”にハマってしまうことも。
けれど本当に強いトレーダーは、
動くべき時と、動かないべき時の“間”を理解している人です。
「行動しないことも、行動のうち」。
静かな判断が、最終的な勝者をつくるのかもしれません。
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