「親が入院したけれど、退院後すぐに自宅へ戻るのは難しい……」
「リハビリを続けながら、もう少し身体を回復させたい」
「老健という施設があるらしいけれど、特養とは何が違うの?」
高齢の家族を介護していると、「老健(ろうけん)」という言葉を耳にする機会が増えてきます。
介護老人保健施設、いわゆる「老健」は、単に高齢者が長期間生活するための施設ではありません。基本的な役割は、病院から退院した高齢者などが、リハビリテーションや介護、必要な医療を受けながら、在宅復帰を目指すための施設です。
そして2026年8月1日からは、老健を含む介護保険施設の「食費」について制度改定が行われました。特に、低所得者向けの「負担限度額」を利用している人についても、一部の段階で食費の自己負担額が引き上げられています。
この記事では、老健の基本から費用、特養との違い、入所期間、リハビリ、そして2026年8月1日からの料金改定まで、できるだけ分かりやすく解説します。
老健とは?介護老人保健施設の基本を解説
老健とは、正式には「介護老人保健施設」といいます。介護保険の施設サービスの一つで、要介護1~5の認定を受けた人が利用できます。
厚生労働省の介護サービス情報公表システムでは、老健について「在宅復帰を目指している方」を受け入れ、リハビリテーションや必要な医療、介護などを提供する施設と説明されています。
つまり老健は、「介護施設」と「リハビリ施設」の中間的な役割を持つ施設と考えると分かりやすいでしょう。
例えば、以下のようなケースで老健が選択肢になります。
- 病院での治療は終わった
- しかし自宅で生活するにはまだ不安がある
- 歩行や食事、トイレなどの能力を回復させたい
- 家族だけで介護するのは難しい
- もう少しリハビリをしてから自宅へ戻りたい
老健で受けられるサービス
老健では、単に食事や入浴などの介護を受けるだけではありません。大きな特徴が、リハビリテーションと医療・介護を組み合わせて提供することです。
主なサービスには次のようなものがあります。
1. リハビリテーション
歩く、立つ、座る、着替える、トイレへ行くなど、日常生活に必要な身体機能の回復を目指します。利用者の状態に応じて、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士などが関わります。
2. 食事
栄養状態にも配慮しながら食事が提供されます。高齢者の場合、低栄養は身体機能の低下につながるため、リハビリと栄養管理は非常に重要です。
3. 入浴・排泄・着替えなどの介助
身体状況に応じて、日常生活に必要な介護を受けることができます。
4. 医療的なケア
老健には医師や看護職員などが配置されており、一定の医療的な管理を受けることができます。ただし、病院と同じような高度な治療を行う施設ではありません。そのため、医療依存度が非常に高い場合には、病院や介護医療院など別の選択肢が検討されます。
老健と特養は何が違う?
老健と特別養護老人ホーム(特養)は、どちらも介護保険施設ですが、目的が大きく異なります。
簡単に言えば、
- 老健 = 在宅復帰を目指す施設
- 特養 = 長期的な生活の場となる施設
という違いがあります。
| 比較項目 | 老健 | 特養 |
| 主な目的 | 在宅復帰・リハビリ | 長期的な生活・介護 |
| リハビリ | 充実 | 施設による |
| 医療体制 | 比較的充実 | 老健より限定的 |
| 入所期間 | 一定期間を想定 | 長期入所が可能 |
| 対象 | 要介護1~5 | 原則要介護3~5 |
| 退所先 | 自宅などへ戻ることを目指す | 継続して生活するケースが多い |
※ただし、これはあくまで大まかな違いです。実際の入所条件やサービス内容は施設によって異なるため、個別に確認する必要があります。
老健は「ずっと住む場所」ではない
老健を理解するうえで、非常に重要なのがこのポイントです。老健は基本的に、在宅復帰を目指す施設です。そのため、特養のように「ここを最終的な住まいにする」という考え方とは少し違います。
代表的な利用の流れとして、以下のようなステップがあります。
- パターンA: 病院 ➔ 老健 ➔ 自宅
- パターンB: 病院 ➔ 老健 ➔ 特養などの介護施設
老健に入所した後、リハビリによって身体機能が改善すれば自宅へ戻ります。一方で、自宅での生活が難しいと判断されれば、特養や別の施設への移行を検討することもあります。
つまり老健は、高齢者の生活を次のステージへつなぐ「中継地点」としての役割を持っています。
老健の費用はどのくらい?
老健の費用は、大きく分けると以下の項目で構成されています。
- 介護サービスの自己負担(原則1~3割)
- 食費
- 居住費(居室タイプにより異なる)
- 日用品費・理美容代などの実費
老健の料金を考えるときは、「介護サービス費だけを見て判断しない」ことが重要です。実際に施設へ支払う金額は、「介護サービス費 + 食費 + 居住費 + その他の費用」の合計額として考える必要があります。
2026年8月1日から老健の食費が変わった
ここが今回の重要なポイントです。2026年8月1日から、老健を含む介護保険施設の食費の「基準費用額」が改定されました。
厚生労働省によると、食材料費の上昇などを踏まえ、2026年8月から基準費用額が1日あたり100円引き上げられました。
- 改定前: 1,445円/日
- 改定後: 1,545円/日
月30日で単純計算すると、100円 × 30日 = 3,000円 となり、基準費用額ベースでは1か月あたり約3,000円の増加となります。
ただし、注意したいのは「基準費用額 = 全員が必ず支払う食費」ではないという点です。
低所得者には「負担限度額」がある
介護保険施設には、所得の低い人の負担を軽減する「補足給付」という仕組みがあります。一定の条件を満たす場合、食費や居住費について「負担限度額」が設定され、基準費用額との差額が介護保険から給付されます。
利用者の所得や資産などの条件によって、以下のように区分されます。
- 第1段階
- 第2段階
- 第3段階①
- 第3段階②
- 第4段階(一般)
このため、同じ老健に入所していても、所得や資産の状況によって食費の負担額が異なります。
2026年8月から負担限度額も一部変更
2026年8月1日からは、基準費用額だけでなく、低所得者向けの食費の「負担限度額」についても一部変更が行われました。
厚生労働省の資料によると、各段階の食費負担(日額)は以下の通りです。
- 第1段階: 300円/日(変更なし)
- 第2段階: 390円/日(変更なし)
- 第3段階①: 650円/日 ➔ 680円/日
- 第3段階②: 1,360円/日 ➔ 1,420円/日
今回の改定では、低所得者すべての負担が一律に増えたわけではありません。第1段階と第2段階は据え置きで、第3段階①・②の人について食費の負担限度額が引き上げられています。
1か月(30日)ではどれくらい増える?
- 第3段階①(+30円/日):
30円 × 30日 = 900円/月程度の増加 - 第3段階②(+60円/日):
60円 × 30日 = 1,800円/月程度の増加
※第1段階・第2段階については据え置きです。実際の請求額は施設との契約や利用日数によって異なりますので、目安としてお考えください。
なぜ2026年8月に値上げされたのか?
大きな理由の一つが「食材料費の上昇」です。
介護施設では毎日、大量の食事を提供します。米、野菜、肉、魚、調味料などの食材価格が上昇すれば、施設側の負担は非常に大きくなります。
厚生労働省も、近年の食材料費の上昇や、施設で実際に食事を提供するためにかかる費用と従来の基準費用額との乖離を踏まえ、基準費用額を引き上げる判断をしました。「食材費が上がっているのに、食費の基準は以前のまま」という状態を改善し、施設の適切な運営を維持するための改定です。
老健の料金は「食費」だけを見てはいけない
今回の改定を見て、「老健の料金が100円上がった」と単純に考えてしまうのは危険です。
老健の利用料金は食費だけで決まるわけではなく、介護サービス費、居住費、日用品費、医療費、各種加算などを合計して計算します。また、要介護度や施設の体制によっても介護サービス費は異なります。
そのため、「老健なら月○万円」と一律に決めることはできません。入所を検討する場合は、必ず施設から出してもらった料金表や見積書を確認することが確実です。
老健のメリット
老健には、以下のような多くのメリットがあります。
- しっかりリハビリを受けられる病院を退院したものの、まだ歩行や生活動作に不安がある場合、専門職によるリハビリを継続できます。
- 医療と介護の連携がある医師や看護師が配置されているため、医療と介護の両面からサポートを受けられます。
- 家族の介護負担を軽減できる退院後すぐに24時間介護を行うのは困難です。老健を利用することで、介護環境や住宅改修を整える時間を確保できます。
- 在宅復帰への具体的な準備ができる「自宅に帰ったらどの程度の介助が必要か」を見極め、本人と家族に合わせた復帰計画を立てられます。
老健のデメリット・注意点
一方で、老健を利用する際には以下の点に注意が必要です。
- 長期入所を前提とした施設ではないあくまで在宅復帰を目指す施設のため、終身で利用することは基本的にできません。
- 施設によって特徴や強みが異なる「リハビリ重視」「認知症ケア重視」「医療対応充実」など、同じ老健でも施設ごとに強みが異なります。
- 高度な医療対応には限界がある病院ではないため、常に高度な医療処置が必要な場合は、病院や介護医療院などの検討が必要です。
老健に入る前に確認したい5つのポイント
施設を選ぶ際は、以下の5項目を事前にチェックしておきましょう。
- どのくらいの期間を想定しているか「いつまでいられるか」ではなく、「どのような状態になったら退所を目指すか」を確認します。
- リハビリの内容と頻度本人の状態や目標に合ったリハビリが提供されるか確認します。
- 医療対応の範囲持病や服薬、必要な医療処置に対応可能か事前相談が必要です。
- 月額費用の総額介護サービス費だけでなく、食費・居住費・日用品費を含めた総額を確認します。
- 退所後の選択肢自宅へ戻るのか、特養など別の施設へ移るのか、将来設計を含めて相談しておきます。
2026年8月の料金改定で特に注意したい人
今回の改定で特に影響を受けるのは、老健を利用しており、食費の「負担限度額(補足給付)」の第3段階①・②に該当する人です。
ご自身やご家族がどの段階に該当するか分からない場合は、市区町村の介護保険担当窓口や、入所中・検討中の施設の相談員(ソーシャルワーカー)に確認してみましょう。
老健は「ただの老人ホーム」ではない
老健という名前から、「高齢者がずっと暮らす老人ホーム」というイメージを持つ方も少なくありません。
しかし本来の役割は、「介護が必要になった高齢者を、できるだけ自宅で生活できる状態へ戻していくこと」にあります。
病院と自宅の間をつなぎ、医療と介護の間をつなぐ場所。それが老健です。
まとめ|老健を知ることは「退院後の選択肢」を増やすこと
介護老人保健施設(老健)は、在宅復帰を目指してリハビリテーション、介護、必要な医療などを提供する介護保険施設です。長期的な生活の場である「特養」とは明確な違いがあります。
そして2026年8月1日からの制度改定により、以下の変更が行われました。
- 食費の基準費用額: 1,445円 ➔ 1,545円/日(+100円)
- 負担限度額(第3段階①): 650円 ➔ 680円/日(+30円)
- 負担限度額(第3段階②): 1,360円 ➔ 1,420円/日(+60円)
- 第1段階・第2段階: 据え置き
老健を選ぶ際には、介護費単体ではなく「食費・居住費・加算などを含めた総額」を見ることが大切です。そして何より、「この施設に入った先にどんな生活を目指せるか」という視点が欠かせません。
高齢の家族が入院したとき、「退院してください」と言われてから慌てるのではなく、早い段階から老健という選択肢を知っておくことで、介護に対する不安を大きく軽減できるはずです。


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